2015年4月5日日曜日

お勧め映画 「フェイトレス~運命ではなく」監督:ラホス・コルタイ、出演:マルセル・ナギ

今回は、お勧めの映画を紹介させていただきます。

この映画は、ハンガリーの映画で、14歳の少年が経験したホロコースト(第2次世界大戦中、ナチスが行ったユダヤ人大量虐殺)の収容所生活を描いています。ホロコーストを描いた映画は、「シンドラーのリスト」、「ライフ・イズ・ビューティフル」等がありますが、この映画は、日本ではあまり知られていないと思います。ハンガリーのユダヤ人作家、ケルテース・イムレ氏の自伝的小説が原作で、小説は2002年にノーベル文学賞を受賞しているそうです。


主人公である14歳の少年、ジュルカは、ハンガリーの首都、ブタペストに住むユダヤ人です。ナチス占領下のハンガリーでは、ユダヤ人は差別と管理の対象であり、ユダヤ人は全員、左胸に黄色い星のマークをつけて生活しています。

物語は、ジュルカの父に労働収容所への召集状が届く場面からスタートします。親戚一同が集まり、父との別れを惜しむ最後の晩餐の後、ユダヤ教のラビと思われる男性がジュルカに、「幸せだったお前の子供時代はもうおしまいなんだ。ユダヤ人の運命をお前も担っている。運命とは何かわかるか?数千年にわたる絶え間ない迫害を、平常心と忍耐で受け止めねばならない。」と告げます。14歳のジュルカには、ラビの言葉がまだピンときていません。

映画の邦題にも運命という言葉が含まれていますが、「運命」がこの映画の主題です。そして、このラビの言葉通り、ジュルカはユダヤ人の運命に翻弄されていきます。

ある日、ジュルカは、勤労奉仕に従事している同級生と一緒に、着のみ着のまま汽車に押し込められ、ドイツのブーヘンヴァルトにある労働収容所に収容されます。労働収容所で、ジュルカは、故郷に帰りたいという思いを胸に、生きるために働きます。しかし、労働収容所での生活は、常に死と隣り合わせの過酷なものでした。

映像は全編セピア色に着色されており、淡々と収容所生活が描かれます。ジュルカは何とか生き残り、収容所から解放され、自由を獲得します。解放された後のジュルカの述懐は、この映画の肝になっており、述懐の中のジュルカの台詞の解釈の仕方は、映画を見る人によって分かれるのではないかと思いました。正直、最後のジュルカの述懐は、収容所での生活を経験していない私にとって、共感するのが難しいと感じました。あまり書くとネタバレになりますが、この主人公の述懐は、現代を生きる私達に対する原作者からの問題提起だと思います。

映画の全編を通じて、人間や社会について考えるための素材になる作品です。皆さんにもぜひお勧めしたいと思います。